山岡宗八先生の小説「徳川家康」全26巻を読み終えたレビュー記事です。
この「徳川家康」は、ギネスブックで世界最長認定されていたこともあるほどの長編作品です。
ただ長いだけではなく、山岡荘八先生が第二次世界大戦の経験を基にして、戦闘とは、平和とは何かを徳川家康を通じて描いた作品になっています。
終戦から約80年になった今だからこそ読むべき作品の1つかもしれません。
特に、戦争を知っている方々がもう少しでいなくなるからこそ、戦争を知らない私たち世代が読んでおくことを推奨します!!
あらすじ

徳川家康の出生から徳川家康が亡くなるまでの75年の人生をつづった、まさに戦国時代の始まりから終わりまでを網羅した作品です。
あらすじとしては短いですが、正直もうこの1文で伝わるはずということであらすじを終えます。
感想

山岡宗八先生が、第二次世界大戦の経験を基に、平和とは何かを模索しながら書き続けた傑作です!!
山岡宗八先生の戦闘と平和についての考えを徳川家康を通じて読者に伝えてくれました。
そのため、この作品の徳川家康はとてもできた人間です。
まさに聖人君子みたいなところがある。
と書いていて、「徳川家康」って題名だし、徳川家康視点で物語が進むのかなと思っている方も多いかもしれません。
ですが、徳川家康視点で物語は進みません。
基本的には、徳川家康以外の人物にスポットが当たって物語が進みます。
例えば、織田信長が台頭しているときは織田信長メイン。
本能寺の辺りでは明智光秀が、その後は、豊臣秀吉がメインになります。
そのあとは石田三成たち西軍側がメインに。
やっと徳川家康かなと思いきや、色々な人物がメインに話が進み、最後まで徳川家康視点として物語は進みませんでした。
その結果、そのときのメインの人物から見た徳川家康という視点で話が進むため、徳川家康の人物像がとてつもなくできた良い人間になります。
そのため、全26巻と題しているとおり、とにかく長い!!
なんたって、第1巻では家康出てきません。
家康が生まれる前の、家康のお母さんがメインで話が進むんですよね。
それでも、全26巻読んでみて、山岡宗八先生の平和への想いはしっかりと伝わりました。
年末年始や夏休みなど、長期休みの際に一気読みするのもありですね。
山岡宗八先生が込めた平和への願いとは何か?

この作品のメインテーマは間違いなく平和への願いに尽きると思います。
戦国時代を終わらせた徳川家康がどういった思いで生きてきたのか、それを知りたい方はこの作品を読むといいです。
やはり、戦国時代の武将として有名な人物は3人だと思います。
1人目は 織田信長
2人目が 豊臣秀吉
3人目が 徳川家康
ですね。
この3人は日本中の大人で知らない人はいないですよね。
そのうえで、山岡宗八先生の中での人物像として描かれるこの3人は魅力的でした。
織田信長については、戦争をなくすために自分の力を強大にしようとした人間として描かれています。
その思いで、時には苛烈な生き方をさせることもありました。
その反発によって明智光秀に裏切られてしまうんですよね。
次の豊臣秀吉ですが、これは、1度日本を統一します。
しかし、豊臣秀吉は戦うことについては素晴らしい人間ではありますが、日本を統治していく人間ではないと評されています。
そのため、さらに戦いをするために朝鮮出兵をしてしまいます。
この朝鮮出兵については、影で色々な人物がやめさせようと画策しますが、豊臣秀吉に近しい人物たちの出世欲のために失敗します。
この出世欲や、他の人物よりも上になりたいという欲によって戦争が引き起こされてしまうということが、この後もよく描かれます。
例えば、豊臣秀吉の死後の戦として、関ヶ原の戦いや大阪の陣が有名ですよね。
そのことで、徳川家康以外で、山岡宗八先生がある人物に言わせた言葉がとても心に残っています。
それがこちら。
ハハ……まあよい大助、とにかく父はの、大阪城に入ったらしんけんに戦う気じゃ。
勝敗は忘れての。
と申したとて勝敗がないと考えてはならぬ。
戦は何度でも何十度でも、勝敗の決まったあとでまたしばらくは、泰平と称して休むものじゃ。
愚かな……といえば、これほど愚かなことはない。
しかし人間は、泰平を望んでは戦い、戦ってはまた泣いて泰平を希うてゆく……そうした愚かさと縁の切れぬ痴れものじゃ。
そこで父はの、仮に敗れて討ち死にするとしても、次の泰平に役立つような死に方をして参る。
邪魔ものはそっくり抱き、無益な殺生はつつしんでの。
これは、大坂の陣に出向く前のある武将の言葉です。
大助という息子がいる大坂の陣に出向く武将と言えば、そうです。
日本一の武士と言われた真田幸村(信繁)の言葉です。
この言葉のとおり、真田幸村は、戦争とは絶対になくならないものであり、戦争のない時代を作ろうとする徳川家康とは相容れない意見です。
かといって、それを否定するのではなく、その徳川家康の平和への願いを助けるべく戦いに挑むんですよね。
この矛盾をはらんで戦う武将を描いたのは素晴らしいと思いました。
この作品の真田幸村はカッコいいんですよね。
泰平の世では生きることのできない武士たちを丸ごと引き受け、なおかつ、大坂の陣で負けないようにし、豊臣家の存続を願った真田幸村の願いがどうなったかは、皆さん読んでみてください。
この真田幸村の考え方に対しての徳川家康の考え方はこうなんですよね。
その笛な、それは、この家康にとって、一つの救いであったのだ……。
救い……と、おっしゃりますと。
あの戦好きの信長公にも、笛を愛ずるやさしい一面がかくされていた……人間は、決して、戦と縁の切れぬ生きものではない……もっていきようで、刀の代わりに笛を喜ぶこともできる生きもの……戦はこの世からなくなせる……人間は……人間は……それほど愚かな、殺伐なものではないと……。
徳川家康の言葉が正しいと思うのか、真田幸村の言葉が正しいと思うのか、今を生きる私たちが判断していくしかありませんね。
ほかに印象に残った人物としては、柳生宗矩ですね。
徳川家康のそばにいて、常に他者とは違う視点で徳川家康を見ている柳生宗矩の視点が読んでいて面白かったです。
徳川家康を読んだ方におすすめの作品
これについては、同じ戦国時代を描いた長編作品である
真田太平記
をオススメします。
徳川家康が敵側という視点で徳川家康を物語を進めていくのもありだと思います。
また、上でも書いたとおり、真田幸村(信繁)も興味を持つ人物として描かれていたので印象に残ると思うんですよね。
そこで真田家について気になった方も多いと思います。
まとめ
日本の歴史小説好きなら読んだ方がいい傑作の感想でした。
徳川家康については、作品によって人物像が大きくかわる人物の一人だと思います。
それほど魅力がある徳川家康!!
徳川家康についてはいろいろな作品が出ているので、本作を読んで興味を持った方は他の作品に手を伸ばしてみるのもいいと思います。
最後にこの「徳川家康」を読んで1番印象に残った言葉を紹介して終わります。
人の一生は、重荷を負うて遠き道を行くがごとしじゃ。
急ぐべからず、……不自由を常と思えば、さして不足はないものよ。
こころに望みがおこらば困窮したときを思い出すべし……。
堪忍は無事長久の基、怒りは敵と思え。
勝つことばかり知って負くることを知らざれば害その身にいたる。
おのれを責めて人を背むるな。
及ばざるは過ぎたるにまさるものぞ。
以 上
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