【本感想】 山本周五郎 「さぶ」 道徳の時間に読みたい物語 

読書感想

 小説感想記念すべき第2回目は、山本周五郎先生の「さぶ」です。

 初めてこの作品を読んだときは心を打たれました。

 人として本当に大事なものは何かをここまでストレートに描けるなんて素晴らしいと。

 

 小学校の道徳の授業でこの物語を扱った方がいいのではないかと。

 小学生だと少し難しいかもしれないので中学でもいいかな。

 また、悪いことをしてしまって刑務所に入った人たちにも読んでもらいたい。

 

 人間関係に悩んでいるときや自分を見失いそうになっている人がいたら読んでもらいたい。

 絶対に何かを得ることができると自信をもってお勧めします。

 この記事は、まだ「さぶ」を読んだことのない方のために、ネタバレなし感想になります! 

あらすじ

 

 江戸下町のお店に住み込みで働く同い年の職人栄二とさぶ。

 男前で器用な栄二と愚鈍だが誠実なさぶ。

 この二人を軸に、やがておとずれる無実の罪という試練に立ち向かっていく。

 簡単に話すとこういった内容です。

どうしてこの物語はこんなに素晴らしいのか

 愚鈍なさぶが魅せる人間として一番大事なものが描かれているからだと思います。

 この物語の題名は「さぶ」となっているため、読者はさぶが主役だと思って読み始めるかもしれません。

 しかし、実際は栄二視点の物語になります。

 

 ではなぜ題名が「さぶ」なのでしょうか。

 それは、きっと「さぶ」が人間として一番大事なものを持っており、それに気づいた栄二が大事なものを得るからだと思います。

 大事なものとはこの物語を読んで皆さんで確認してください。

 

 大人気漫画の「ワンピース」の題名が「モンキーDルフィ」ではないように、この物語の象徴=伝えたいことが「さぶ」のため、「さぶ」という題名にしたのだと思います。

栄二=読者の成長

 この物語の書き出しは、奉公先を逃げ出そうとする少年さぶを少年栄二が引き留めるところから始まります。

 

 そこから時は流れ、栄二も奉公先から独立し、立派に自分の店を持つ段階にまでなります。

 ですが、さぶは、自分は愚図だから店を持つことはできない。

 独立することはできないと嘆きます。

 この導入部を見ると、さぶは愚図で情けないキャラクターだとよくわかるんですよね。

 読者も、こんなさぶを見て情けないやつだなと思うかもしれません。

 そのあとの栄二の励ましがなんとも言えないです。

 

 さぶは愚図であるが、職人として最初の工程に必要な糊作りは日本一うまいと褒めるんです。

 一番最初の工程しかやらせてもらえないから自分は愚図だと嘆くさぶに対してそれは素晴らしいことだと伝える栄二。

 そして、自分が独立したら一緒に仕事をしようと誘う栄二。

 

 これって良いことを言っているようではありますが、言われたさぶとしてはどう感じるのでしょうか。

 自分に置き換えて考えてみました。

 会社に一緒に入社した同い年の同期が出世して役職をもらえる段階まできました。

 それなのに自分は入社時と同じことしかやらせてもらえない。

 そのうえで、俺の部署に来いよと誘われている状況…。

 自分だったら素直に栄二の言葉を受け取れない。

 

 やっぱり悔しいと思うし、正直なところ栄二と一緒にいるのは苦痛に感じると思う。

 この時点で、栄二の中では

 栄二>さぶ

 という上下関係があるんですよね。

 ここから栄二はどう変わっていくのか。

周囲から見向きもされなくなった栄二 それでも変わらず友情を示してくれるさぶ

 

 その後、栄二はなんやかんやで無実の罪で罪人にされます。

 栄二は人足寄場(にんそくよせば)に収容されます。

 人足寄場はいわゆる更生施設の前身ですね。

 

 鬼平犯科帳で有名な長谷川平蔵さんの提案により国が設置したものです。

 栄二はそこで色々な人間に出会い、困難にぶつかるんですよね。

 ですが、栄二はこの人足寄場で大切なことを学び成長していくことになります。

 

 イケメンで仕事もできる栄二、周りからの評価もよく、女性陣からも引っ張りだこなのは想像がつくでしょう。

 現実にもこのような人いると思います。

 ですが、周りの評価は一瞬で変わります。

 

 無実だと主張しても周りは信じません。

 中には、そんな栄二に対していい気味だと思う人間もいたでしょう。

 その後も栄二と今まで通りに接してくれるのはさぶだけでした。

 

 そんなさぶに対し、栄二はどう思うでしょうか。

 私が栄二だった場合、自分が上だと思ってかわいがっているやつに情けをかけられている。

 むかつく!

 と思うかもしれません。

 

 僕のヒーローアカデミアの初期のかっちゃん状態ですね。

 そんな栄二のいらんプライドをいさめてくれる。

 与平の言葉が栄二と読者に刺さる刺さる。

 

 そして出所した栄二とさぶの最後につながっていきます。

 出所した栄二が人生において本当に大事なものは何かわかったのかどうか。

 ぜひともこの物語を読んで確認してください。

まとめ

 さぶという物語は人生でとても大事なものを教えてくれる物語です。

 私はこの大事なものをまだ手に入れていません。

 もしかしたら、これを手に入れる前に亡くなってしまう人も多くいることでしょう。

 

 できればこの作品を小学生のときに読みたかった…。

 今日の一言は、この物語で一番心に残った与平のこの言葉。

 

 どんなに賢くっても、にんげん自分の背中を見ることはできないんだからね

 

 私は賢くありません。

 ですが、怒りが湧きそうになったときや

 ついつい人に言いすぎてしまったときなどにこの言葉を思い出します。

 怒っている自分、やりすぎた自分の背中はどうだったのだろうかと考えるようにして次に活かしています。 

                                          以 上

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