【本感想】人生の節目のたびに読み返したい傑作「ながい坂」何度読んでも新しいものを得る

読書感想

 今回の感想記事は、山本周五郎さんの集大成!?作者晩年の傑作「ながい坂」です。

 山本周五郎さんと言えば、権力を持たない市井の人が主人公になる作品が多いイメージですよね?

 そんなイメージが強い山本周五郎さんの小説の中で、本作「ながい坂」の主人公は出世の道を歩みます。

 もちろん、出世するための道はとてつもなく険しい。

 その険しい道を踏破していく主人公の姿に読者は何かしらの気づきを得ることでしょう。

 本作「ながい坂」は

こんな時に読んでほしい

卒業、就職、結婚、子供の誕生など、人生の節目ごとに何度も読み返してほしい

 そんな作品です。

 今回の感想記事についても、まだ「ながい坂」を読んだことのない人のために、ネタバレを極力しないようにしていていますよ。

 そのため、ネタバレが気になる方でも安心してこの記事を読んでもらうことが可能です。

あらすじ

 江戸時代。

 下級武士として生まれた主人公・小三郎は、8歳の時に経験したあることで、出世を意識する。

 階級社会だった武士の中で、下級武士が出世することは容易ではない。

 だが、主人公小三郎は、武芸と学問に力を入れて出世の階段を上っていく。

 人の一生とはいったい何なのか?

 山本周五郎最後の長編作品。

感想

主人公・主水正の人生に触れて何かを感じるはず

 「ながい坂」の1番の魅力は、何といっても、主人公・主水正の生き方。

 主水正が8歳の時に、偉い人の一声で自分が使っていた橋が壊されるという経験。

 その経験から、主水正は漠然と出世をしようと考えます。

 この時点で、普通の人とは違う。

 自分が普段使っている道路が無くなったから、自分が偉くなってそんな横暴がおきないようにしてやる!!って思う人は少ないと思うんですよね。

 私だったら、納得がいかないとは感じつつ、諦めて終わるだろうなぁ。

 きっと、多くの人が私と同じだと思います!

 だけど、主水正は、今よりも階級社会だった当時の時代に、出世することを誓うんですよね。

 そして、それを実現するために、途方もない努力を繰り返します。

 そのうえで、自分のことを犠牲にして、出世のため、藩のために全力を尽くします。

 時には、妬まれ、お家騒動のために命を狙われ、行方をくらますために極貧生活をすることにも。

 それでも、主水正の考え方や生き方はブレません。

 主水正は、自分の人生の困難にぶつかるたびに、自分に問いかけるんです。

 これでいいのか?自分の考え方は間違っていないのかと。

 この主水正の自問自答のシーンが、読者の悩みとリンクすることが多く、読んでいて心が楽になります。

主人公以外の登場人物の魅力も捨てがたい!!

 先ほどまでは、主人公・主水正の素晴らしさについて話してきました。

 主人公・主水正は、まさにパーフェクト超人。

 正直、主水正だけだと「ながい坂」は傑作とは言えません。

 だって、ほとんどの人間は主水正のようにはなれないんですから。

 そのうえで、私が「ながい坂」を傑作だと言いきる理由は、主水正の周辺の登場人物がどれも魅力的!

 色々な登場人物がいて、本当に誰もが人間らしさを持っていて魅力的。

 そんな魅力的な人物たちと出会うことで、主人公・主水正は成長していきますし、読者も読んでいて飽きない。

 魅力的な登場人物が多い中で、私が特に気に入っている人物が二人いました。

 一人目が、主人公・主水正のよき理解者であり、協力者でもある津田大五。

 津田大五は、主人公・主水正とは真逆の生き方。

 津田大五は、江戸家老を父に持つ良い家柄出身。

 下級武士出身の主水正とは真逆の生まれ。

 主水正は、合理的な考え方でマシーンのよう。

 津田大五は、人間味あふれるいい男。

 だけども、なぜか気の合う二人。 

 互いにないものを互いで補う関係が読んでいて気持ちよかった。

 もう一人魅力的だったのが、主水正の妻である「つる」。

 この「つる」は、鷲っ子と呼ばれるほど気が強い女性で、結婚当初はわがまま放題。

 主水正との仮面夫婦関係が続いていましたが…。

 途中からのつるの変化がまた素晴らしい。

 これが、元祖ツンデレかって思いながら読み進めました。

 このつるの変化については必見ですね。

心に響く言葉の数々

 山本周五郎さんの小説の何が面白いのかというと、心に響く言葉が多いんですよね。

 特別カッコいいことを言っているわけではないのに、なぜか心に残る言葉が多い。

 本作「ながい坂」も、その特徴がしっかりと出ています。

 人が生きていくうえでぶつかる困難等に対してどう対処していくのか?

 その答えを、山本周五郎さんが物語の登場人物を通じて私たち読者に伝えてくれます!

 私は、山本周五郎さんの小説を読むたびに、山本周五郎さんの小説の様な言葉が出てくるようになりたいと思っちゃうんですよね。

 それほど、山本周五郎さんの小説の言葉選びは素晴らしい!

「ながい坂」の次にオススメの作品は!?

 

 今回紹介した「ながい坂」。

 きっと読み始めたらあっという間に読み終わってしまうでしょう。

 そんなあなたが次に読むのにオススメの作品が、同じ作者の「樅ノ木は残った」です! 

 山本周五郎さんの代表作でもある「樅ノ木は残った」!

 「ながい坂」と同じく、主人公が自らの身を削りながら藩を守るために奮闘する姿に感動することは間違いなし!!

まとめ

 時代劇小説と言うよりは、道徳小説と呼んでも過言ではない必読書「ながい坂」。

 人生の節目がくるたびに読み返してほしい。

 読み返すたびに、何か新しい気付きを得ることができる作品だと思っています。

 最後に、私が1番気に入った言葉を紹介して終わりたいと思います。

 人間はたいてい自己中心に生きるものだ。

 けれども世間の外で生きることはできない。

 たとえば阿部の家で祝いの宴をしているとき、どこかでは泣いている者があり、親子心中をしようとしている家族があるかもしれない。

 自分の眼や耳の届くところだけで判断すると、しばしば誤った理解で頭が固まってしまう。

 いまわれわれはすっかり忘れているが、井関川の水は休まずに流れているし、寺町では葬礼がおこなわれているかもしれない。

 わかりきったことのようだが、人間が自己中心に生きやすいものだということと、いまの話をときどき思い比べてみるがいい。

 深いですなぁ~。  

 以 上

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